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最終話 大学生、青春駆ける|青春駆ける ~馬術に情熱の全てを捧げた10年間の成長の足跡~

大1・9月~大2・6月:馬術部にて

朝練習

馬術部へ入部届けを再提出した翌日から部活へ加入。5時、まだ太陽が顔を出していない早朝・未明に部活がスタート。「かめです。9年間乗馬やっていました。よろしくお願いします」と部員全員の前であいさつ。

早速馬を洗蹄場へ繋いで厩舎掃除を行いました。これまで掃除してきたものと違い、おが屑ではなく藁がびっしりと馬房へ敷き詰められています。先輩曰く、「藁だと日干ししてまた使用できるから安上がりなんだよ」と。藁の掃除は難しい。どのレベルまでの汚れた藁を捨てればいいかの見定めが慣れるまでは困難。あまりに汚れたものを再利用するのは衛生的に悪いです。ウマの病気を防ぐためにも慎重かつ真剣に掃除をやらねばなりません。

掃除が終わると曳き馬 (ひきうま)へ。馬の歩様を確かめます。馬の左手に立ち馬と歩いてテキパキと常歩・速歩を実施。問題がなければ練習に使う。違和感があれば休ませてあげる。

曳き馬を終えた頃に今日乗る馬が発表されます。どの馬に乗るのも初めてですから誰に当たっても楽しみです。当たった馬のもとへ行くと先輩が「よろしくね^ ^」と声掛けして下さりました。「コチラこそよろしくお願いします」と丁寧にお返事。いくら国体で勝ったことがあるからといっても調子に乗っては絶対にダメ。誰をも敬い、誰からも学ぶ姿勢を崩さず謙虚にいかなくちゃ。

15~20分ほど先輩が乗ったら「次、どうぞ」と私に馬が渡されます。「ありがとうございます」と馬に乗り、常歩からゆっくり運動を開始。馬の上からの風景は壮観。普段より1m以上高い場所から見える景色は新鮮そのものです。先輩に「何をやったらいいですか?」と聞いてみたら「経験者でしょ?何でもやってもいいよ」とのお返事。「そうですか、じゃあ^ ^」と馬場全体を使って速歩や駆歩を実施。

風を切って馬場を駆けると広島時代を思い出す。馬乗りの血がザワザワと騒いでまた障害を飛びたくなる。馬術部では障害を飛ぶ日と飛ばない日が設定されていました。飛ぶ日はコンビネーションや経路走行、飛ばない日は他の人馬と一緒に部班レッスンで団体行動。私の場合、団体行動が不得手なので、自由に障害をバンバン飛ばさせてもらえる日の方が幾らか楽しかったです。とはいえ、浪人時代の漆黒の日々を思えば馬に乗れるだけで嬉しかったですが。

運動後、馬を洗蹄場へ繋いで体をきれいにしてあげます。泥や汗で体が汚れているから全部洗い落としてあげる。馬の脚にケガがないかどうかもこのとき入念に確認します。外傷はもちろん、変に熱を持っていないかも自分の手で触って調べるのです。自分まで汗をかいている時は馬の丸洗いと同時に自分も水をかぶる。コレがまた本当に気持ちがいい。「あー、最高!」と声が出る。馬体を拭いて体毛を乾燥。ある程度乾いたら馬を馬房に戻して朝ごはんをあげます。最後に馬具の手入れを実施。鞍や頭絡、腹帯などは革製品なので、オイルを適宜染み込ませてあげ潤いと柔軟性を保っておく。

練習を終えたら皆で部室へ。上手く行ったことや行かなかったことを各自、ノートに書き込みます。部員の大半は子供のころに乗馬をやったことがない人たち。それでも部活加入後、練習したり本を読んだりして上手に馬を操れるように。私と違い、部員は馬術の技能を上手く言語化することができる。私が感覚でやっているようなことを論理的に考え、文字として書き出すことができる。 (すげぇな。何でこんなことまで言葉にできるんだ……)と部活加入初日に感動させられました。”自分も感覚本位の騎乗を改めよう”と強く思った瞬間であります。

 

同期との交流

部活に入る醍醐味の一つは同期部員との交流にあります。乗馬クラブでは同世代の人が少なかったので横との関係は希薄でしたが、部活では同期が沢山いるのでいくらでも交流可能です。

私、年上の人間に対しての接し方はよく知っています。乗馬クラブや国体期間中にたっぷりと揉まれてきましたから。その副作用か、同世代の人間との絡み方をあまり知りません。練習しかしてこなかったので乗馬のネタしか話せないし、ソレにさえ関心を持ってもらえなければ最早どうすることもできません。しかし、馬術部の同期は性格の良い人ばかり。何を話しかけたらいいやらウンウン困り果てている私を見、「一緒にご飯食べに行こうよ!」「食べながら話そう!」と誘い出してくれたのです。同期に食事へ誘われたのなんて初めて。あまりに嬉しくて笑顔で「うん!」と応じてお好み焼き屋へと行きました。店内では「入部してくれて嬉しいよ」「乗馬のことで分からなかったらいつでもかめちゃんに聞ける!」と歓迎ムード。てっきり (途中から入ってきやがって。誰やコイツ?)と邪険に扱われるのを覚悟していたので意外。”この人たちの為に何ができるか?”と真剣に考えるようになりました。自分の為に馬に乗るのではなく、同期を助け、同期に少しでも上手くなってもらうために頑張ろうと思ったたのです。

部員には男子もいれば女子もいる。ガツガツタイプもおっとりタイプもその中間タイプも全部いる。いろんな人と接するにつれてコミュニケーションが上手くなります。全員に対して同じスタンスでぶつかると齟齬をきたすから、相手に応じて柔軟にスタイルを変える即応性が身に着くのです。口下手の私でさえも馬術部のおかげで喋るのが得意に。大学で何をやろうか迷っている方はとりあえず馬術部に入っておけば間違いありません。

乗馬クラブにはない馬術部の良さは、人間同士の連携プレーで”皆”で成果を出していく所。乗馬クラブだとどうしても個人戦になってしまいがちですが、馬術部だと必然的に他人と助け合って団体戦として競技へ立ち向かうのです。私自身、団体行動が苦手です。最初は (”みんなみんな”って邪魔くさいなぁ…)と面倒に思えてなりませんでした。でも馬術部で長く過ごすにつれ、”共同プレーも良いかもしれない”と心持ちが少しずつ変わっていきます。 (自分でやれることには限界がある。ならば他人の力をうまく使ってもっと遠くへ行こうじゃないか) と。

 

競技について

馬術部の方は競技へ盛んに出場していらっしゃった。80cmや100cmはもちろん、中には110cmや120cmの中障害へ出場する方も。私自身、北大内の競技会やノーザンファームで100cmに出させてもらいました。普段から自分で調教している馬で競技に出るのはすごく新鮮。

乗馬クラブの場合、平日にはクラブのスタッフさんが調教して下さります。私のようなクラブ会員は週末にしか乗りません。ゆえに、大会でどれほど好成績を収めてもその大部分はスタッフさんの功績。いくら表で私がドヤ顔してもスタッフさんの方が圧倒的に偉い。それが馬術部では違います。普段の調教から競技への調整まで全部自分でやる必要があります。どうやって調教すればいいかの方針を立てるのも部員自身。OBや外部の先生方にアドバイスを求めるときもあるけど、基本的には何から何まで部員だけで回してかねばならない。

乗馬クラブのスタイルに慣れきっていた自分にとって、ゼロから馬を作り上げていくのは本当に面白い営みでした。ちゃんとやれば結果が出るし、ちゃんとやらなかったら結果が出ない。馬は決して嘘をつかない。自分が調教したそのままの通りに走行し、かつ障害物を越えていきます。何をどうすればいいか分からないので本や動画を懸命に漁る。大学の講義中にも後ろの座席で障害飛越の専門書を読む。読んでは試し、また読んでは試す。上手く行きそうな方法が見つかればしばらく続けて成果を見定める。馬術部員は研究者。確固たる正解のない荒野をヘルメットと長靴だけで駆け抜けていく。

私には『国体優勝』という煌びやかな過去の栄光が。いくら私が競技へ出たくなくても競技へ出ざるを得ないのです。誰かが乗って競技へ出なくちゃ馬が実戦経験を積めません。競技に出るのが部活の宿命。競技へ出られる馬が居なくなった最後、部活としての存在意義を疑われ崩壊してしまう可能性も。 (出たくないなぁ……) と思いながらも競技へ出場しておりました。中学・高校生時代と違って競技へのモチベーションはありません。いかんせん、私は休みたかった。国体や受験で疲れた心を休め、のほほんと過ごしたかった。選手よりも裏方をやりたい。普段の調教で馬をチューンアップする仕事なら欣喜雀々とやるのだけれども、競技だけは別の部員に出てもらって人馬の活躍を傍から見ていたかった

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