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vol.4 中学1年生、勝ちまくる|青春駆ける ~馬術に情熱の全てを捧げた10年間の成長の足跡~

10月:ディートリッヒからスプラッシュへ鞍替え。その1週間後にクラブ内競技会で優勝

註:写真はフリー素材です。スプラッシュではありません

ディーちゃんは決して悪くない。100%自分が悪いのです。私が (怖い) とさえ思わなければディーちゃんだって110cmを飛べる。しかし怖いものは怖いですから、小障害から中障害へのステップアップは難しかった。

I先生からある日、「お前はもうディーちゃんに乗らなくていいぞ」と宣告されてしまいます。 (あぁ、とうとう見放されたか…)と辛くて悲しくて泣きそうに。その直後、「代わりにこの子に乗れ」とディーちゃんの2つ隣の馬房を指差し仰いました。 (見放されなくて良かった…)とホッとして指差す先を見てみると、鹿毛の可愛いお馬さんがきょとんとした顔でコッチを見ていたのです。お姉さんの名前は『スプラッシュ』。私より一歳年上でした。スプラッシュは既にレジェンドホース。全日本大会で毎年のように入賞していた凄い馬。とにかく足が速いんです。おまけに障害物を落とさず回る。I先生から「スプラッシュに乗れ」と告げられた時、 (荷が重いなぁ、重すぎるよ…)と顔が引き攣ってしまいました。確かにスプラッシュは凄いんだけれども、凄い馬に乗るには技術が要るから自分にはおそらく不相応だろう、と。自分が何も言えず固まっていると、I先生、「乗るんか乗らんのかどっちなんじゃい!」と私にズカズカと詰め寄ってきました。そんなの乗るしかないじゃないですか。「は、は、はい、乗ります。乗ります!」と慌ててスプラッシュに乗る用意を整えました。

スプラッシュには既にMさんという女性の馬主さんが。Mさんとスプラッシュがタッグを組んでこれまで全国で活躍してきたのです。スプラッシュへ乗るのが決定したときMさんに申し訳ないと思いました。私のせいでスプラッシュをダメにしてしまう可能性が少なからずあるわけですから。でもMさん、すごく優しい方で、自分が何度ヘマをしでかしても「大丈夫だから」と気を使って下さりました。おそらくはらわたが煮えくり返りそうなほどイライラしていたと思いますが、そんなの決しておくびにも出さず私と接して下さりました。スプラッシュに乗った4年半はMさんへ甘えてばかりでした。Mさんが優しく見守ってくれたことを本当に感謝しています。

初めてスプラッシュにまたがった時の印象は『ヤバい』の3文字でした。何がヤバいって、あまりに元気が良すぎるんですね。手綱を介して馬の力がグイグイ腕に伝わってきます。「こんなの遅い!もっと走らせてちょうだい!」と叫び、訴えてくるような感じ。注文通り速くするとどこまでも速く走ります。でもって減速しようと思えばわずか数秒でおとなしくなる。コントロール可能なスピード域が他の馬とはケタ違いに広い。(すごいな。道理で全日本で活躍するわけだ…)と一人で感動していました。I先生に「飛べ」と指示され障害物に速歩で向かうと、鞍下のスプラッシュさんは「はい」と言って軽々飛び越えてしまいます。ディーちゃんであれほど苦戦していた110cm障害もあっさりクリア。初めてスプラッシュに乗ったレッスンでは100cmのコース走行までさせてもらいました。下馬後、I先生から「スプラッシュ、どうだった?」と聞かれ、目を輝かせ笑みを浮かべながら「最高でした✨」と答えたものです。

ちょうどその1週間後、MRCにてクラブ内競技会が予定されていました。本当は馬主のMさんがスプラッシュと障害飛越競技 (100cm)に出るはずだったのですが、勤務先の仕事の都合で出場できなくなっちゃいました。I先生、何を思ったか、「そうや、お前 (私)が代わりに出たらえぇやん!」と急に言い始めます。タッグを組んで1週間の馬と競技に出るなど狂気の沙汰。いくら馬が優秀とはいえ1週間では間に合いません。「さすがに無理っすよ」と音速で答えてその場から駆け去ろうとしました。しかし逃げるのが間に合わなかった。I先生に襟首を掴まれ「出るよな?な?」と脅されます。も~、なんでそうやって脅すんですか。こうされたら「出ます」と言うしか他にないじゃありませんか。そこで翌週の競技会には私が出場することに。(ホンマに大丈夫なんかなぁ…)と全く自信のないまま1週間が経過しました。

競技について、結論から言えばぶっちぎりでの優勝でした。コースのショートカットは一切行わず、制御可能な最高速度でスプラッシュただを誘導していただけ。安牌にゆっくり走ろうと思っていたら、馬場の外からI先生が「遅い!」と煽ってきました。どれだけペースを上げても「遅い!」と言うから「分かりました」とペースを上げたのですが、傍から見れば馬に暴走されているようにしか見えないぐらいのペースになっていたよう。そんなペースでもスプラッシュさんはちゃんと曲がるし飛んでくれます。スプラッシュのリズムを崩しさえしなけりゃ走り始めた時点で勝ち。競技終了後、I先生から「スプラッシュではあのペースが普通やから」とアドバイスされました。”あのスピードに早く馴染んでコースを回れるようになりなさい”と。私が(恵まれていたな)と後に思うのは、どれだけスピードを上げたとしても全然怖くなかったという点。速さへの恐怖がなかったおかげでスピードに慣れさえすれば良かった。ちなみにこの競技会ではディーちゃんにも乗って小障害に出ました。コチラも優勝させてもらって2冠を達成いたしました。競技から1週間後、Mさんから「優勝おめでとう!」と褒めてもらいました。Mさん、凄く可愛い方なので、褒められ”えへへ”とニヤニヤしちゃいました。

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