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vol.2 小学5年生、乗馬にハマる|青春駆ける ~馬術に情熱の全てを捧げた10年間の成長の足跡~

8月:I先生の鬼レッスンで鐙無しにて120cm障害を飛越

馬術には4種類の競技があります。

  1. 障害飛越競技:いわゆる障害物競走。コース上に設置された障害物をどれだけ落とさず速く飛び越えゴールできるかを競う競技
  2. 馬場馬術競技:フィギュアスケートのように動作の美しさや正確さを競う競技
  3. 総合馬術競技:馬場馬術競技と障害飛越競技に加え、草原に設置された障害物を飛び越えるクロスカントリー競技の3つをこなす競技
  4. エンデュランス競技:数十kmもの長いコースをどれだけ早くゴールできるかを競う競技

競技人口の規模で言ったら①と②が大多数。①と②を比較しても①の方が多い印象。障害飛越競技の良さはとにかく楽しい所です。障害物を飛び越える時、地面を離れフワッと宙に浮く感じがたまらなく心地良い。馬場馬術競技にも面白さはある。以前はできなかったハイレベルな演技ができたときの感動は到底筆舌に尽くせません。のちのち高一と高二で馬場馬術の県大会に出ます。高二で県大会を制したときは大変嬉しかったものの、小学生の私にはモノを飛び越える面白さの方が圧倒的に勝っていました。

乗馬クラブでの中級レッスンは障害飛越と馬場馬術のスキルを両方伸ばせる形式でした。乗馬クラブのスタンスとしては、『会員さんに両方やってみてもらい、どちらの競技をするか決めてもらう』というモノ。私の場合、前述のように障害飛越が性に合った。そうすると自然、障害飛越のコーチから技術を教わるわけです。小5の頃から師匠・I先生にみっちり指導を受けるように。I先生はとにかくアツい方。私が少しでも障害飛越がヘタクソだったら「もっとちゃんとやれよ!!」と鼓膜が破れるほどのボリュームで怒鳴り散らす。沸騰すること火山の如く、燃え上がること鬼神の如し。いわゆる超体育会系の師匠ですが、叱り方に愛があるから不快にならなかったんです。理不尽な叱り方はしなかった。私に明確な非がある時だけ怒られたから納得できた。小6、中学受験のため半年ほど乗馬から離れる際には、「お前なら大丈夫だから!」とアツいエールで送り出して貰いました。めちゃくちゃ人間味のある方だから嫌いになれなかったんですよね。

 

そんなI先生から8月、夏休みのある日、とんでもないことをやらされました。

いつものようにレッスンを終え、(さて、馬と一緒に馬房へ帰るか)と馬上で常歩しながらリラックスしていた時のこと。I先生から「おい。お前、ちょっと残れ」と居残りレッスンを宣告されます。居残り自体は珍しくはない。他の会員さんが居ては場所の都合で出来ない練習を居残りでよくやらせてもらっていましたから。しかし、そこからはよくあることではありません。なんとI先生、私へ近づくや否や、鞍から鐙 (あぶみ)を抜き取ってしまいました

鐙って騎手が馬上でバランスを取るのに必要不可欠なモノなんですよ。鐙があるおかげで馬上で立ったり座ったりできますし、馬が暴れ出してもギュッと踏ん張り何とか落ちずにいられるのです。I先生はソレを取った。(狂気の沙汰だ)と思いました。いったい何をやらせるつもりか笑?裸馬に乗っているも同然の私に果たして何ができるでしょうか…?

I先生、困惑した私に「障害を飛べ」と言いました。「障害コースを走っている途中で鐙が脱げた時の練習や」と。 (なるほどなぁ…) と思いました。鐙が脱げるような緊急事態でもゴールできるようになるための特訓。でも冷静に考えてみて、(なにも鐙を取る必要は無いじゃないか笑)と感じました。わざわざ鐙を抜き取らずとも、鐙を抜いて障害物を飛べばソレで事足りるのではありませんか、と。しかしそんなの言えません。だってI先生、怖いんですもの笑。少しでもI先生に口答えしたら「あぁん?文句あんのか?」と怒鳴られる確率1億%。黙って障害を飛んでおくに如くはなしということで、鐙の無い心細い状態で障害物へ向かいました。

鐙があるのとないのとでは当然、ある方がバランスをうまく取れます。しかし、無ければ無いなりに体を使って何とかバランスを取れるものです。障害物を飛び地面から浮き上がりかけたその瞬間、馬からあわや引きはがされそうになってしまうタイミングが一瞬訪れます。ソコで離されないよう馬のたてがみへ両手でガッシリとしがみつき、両膝を鞍にピタッと沿わせて摩擦力でもって馬との接着を確保する。最初はコツが全く分からず、立て続けに2回ほど障害飛越後に落馬しました。一度は頭から地面へ垂直に落馬し首がめちゃくちゃ痛かった。でも要領を掴めば何とかなる。普段、鐙”アリ”で飛んでいる高さ (100cmぐらい)の障害物を楽々クリア。

普段ならコレで終わります。I先生、タガがお外れになられたのか、レッスンを終える兆候を一向にお見せにならないんですね。どころかどんどん高さを上げる。しまいには当時の私の肩ほどもある高さ (120cm)にしてしまいました。120cmなんてもはや壁。乗馬を始めてまだ1年と少しの小学5年生が飛んで良い高さではない。馬も飛ぶのが怖いのでしょう。障害物の前で何度も急停止して嫌がるそぶりを見せてきます。I先生、ソレにかまわず「飛べ」と言います。(嫌だなぁ)と思いながら障害物へ向かうと、今度は馬がすんなりと飛越。(なんでだろう)と思って後ろを向けば、なんと数mの長い追いムチを持ってI先生がダッシュで追いかけてきていたそりゃ馬も怖いですよね笑。”叩かれるより飛んだ方がマシだ”ということで馬もしぶしぶ飛ぶことにしたよう。

鬼畜すぎる居残りレッスンにより、多少のハプニングでは物怖じしない強い心が育ちました。中学生以降、障害飛越競技の途中で鐙が脱げてもゴールまでちゃんとたどり着けるように。

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