レース体験記その3:レース後半の模様
20km~30km 39分33秒
三回目の上り坂で左ふくらはぎへ痙攣の兆しが出現。地面を蹴り出すたびに少しプルっと震える。フォームは二周目までとさほど変わらない。むしろ、リズムが固まってきて、フォームがどんどん良くなったように思う。単純にダメージ蓄積の影響か。何万回も地面を蹴り続けて筋力のレンジオーバーを迎えたのか。僅かでも出力を増したらすぐ痙攣しそう。ここからは今まで以上に離地へと注意を払いたい。
スタート時点では20人以上いたキロ4分の集団も、周回を重ねるにつれて徐々に数が絞り込まれてきた。苦しみに我慢し続けられなかった者から順番にこぼれ落ちていってしまう。集団の最後方で走っていると、自分の前を走る人間が集団から徐々に遅れ始める様子を至近距離で動的観察できる。顎が上がり、背中が反り上がり、苦しそうな表情を浮かべて脱落していく。彼らが集団から離れ始めたときは要注意。あえて離れて遅く走って元気を取り戻そうとしているのか、それとも単純に元気がなくなって遅れ始めたのかを判別する必要が。後でまた集団に追いつくつもりの人ならば良い。スタミナ切れで集団に追いつけなくなった人の場合はさっさと追い抜いて集団に合流せねばならない。最後方では瞬間的なジャッジが求められる。自分まで集団から距離が離れてしまうと、追いつくときに余計なスタミナを使うことになるから。
三周目は二周目の集団を追い抜くフェーズ。サブ4やサブ5を狙って走る集団を左手からごぼう抜き。追い抜きざまに「ファイト―!」と応援してもらえる。たくさんのエールに後押しされる形で進む。「ヤバい。この人たち、めっちゃ速い…」とのひそひそ声も。速いと言われる側になれて感慨深くなる。ちょっと快感だ… いや、まだ気を緩められない。時々、すれ違う集団同士の真ん中をかき分けるようにして進むことも。自分が進んでいるのか、それとも周囲だけが動いているのかワケが分からなくなる。先頭を走るキロ4分のペーサーさんの声掛けによって、モーセが海を割ったみたいに大勢のランナーがサーっと中央へ道を開ける。キロ4分集団も阿吽の呼吸で縦列体形を作り、細くて長い人の壁を通り抜けていく。
三周目は集団の追い抜きが何度もあった。あまりペースが出ていないように思えたが、この10kmのラップタイムは最速の39分33秒。一体どこでタイムを稼いだのか。あるいは、追い越す時もペースがさほど落ちていなかったのか。
集団で走るとペース感覚が狂う。いつもの出力でいつもよりもずっとずっと楽に走れてしまう。普段は自分の足音で速さを概算している。この足音ならだいたいキロ〇分、あの高さの足音ならキロ△分、と。集団で走ると自分の足音が周囲にかき消される。走行速度を確かめるすべは、ランニングウォッチか、体感的なものぐらいしかない。ランニングウォッチの頻繁な確認は脳のエネルギーロスに繋がって嫌だ。体感速度は集団走の真っ最中だからあまりアテにならない。今は自分のペースをペースメーカーへ委ねるしかない。まぁ、キロ4分ぐらいでずっと巡航できているし、それで何ら問題はないはずなのだけれども。
30km~40km 39分30秒
四回目の上りでふくらはぎへピリッと刺激が走った。とっさに接地角度を変えて痙攣回避。危ない、危ない。もう少しで痙攣する所だった。痙攣したらシャレにならない。ペース走のつもりで参加したはずの真駒内マラソンが悶絶地獄になる。足が攣った状態で走る苦しさは、大学三年次の富士山マラソンで体感済み。富士山マラソンでは25kmからの激坂踏破直後に両ふくらはぎが痙攣し始め、残り17kmを数百メートルごとに襲ってくる痙攣に耐えながらサブスリーを達成した。あの時と同じ苦しみをまた味わいたくはない。接地・離地角度の微修正を絶え間なく繰り返して痙攣をやり過ごした。
上り坂をどうにか上りきり、下り坂でふくらはぎを少し休憩させる。坂を駆け下りながら痙攣の原因分析。脚の蓄積ダメージ以外に何が考えられるだろうか… 一つ、仮説を立てた。ミネラル分喪失のせいじゃないだろうか?走行中、日なたでは太陽光がランナーを容赦なくじりじりと照射している。体温を下げるべく、額や首筋、脇からはたくさんの汗が分泌される。汗には塩分のほか、ミネラル分も含まれている。発汗によって体内のミネラル分の相当量が失われているのではないか。
ハーフタイツの内側へ入れておいたエナジージェルの出番じゃないか。このジェルにはマルトデキストリンのほか、ミネラルやカフェインが含まれている。エイドの直前に開封して摂取。エイドでアクエリアスを飲んでジェルを流し込む。薬は「コイツは効くぞ。効果抜群だ」と思って飲めば偽薬でも効果がある。ジェルも同様。「コイツがふくらはぎの痙攣を快刀乱麻を断つが如くスッキリ解決してくれる!」と思って飲めば効く。集団の最後方で「効け… 効け…」とぶつぶつ念じた。傍から見れば不審者そのものだろう。
効果は摂取1km後に顕れた。まるで羽が生えたみたいに足取りが軽くなった。あまりの劇的な変化に思わず笑みがこぼれる。なんじゃこりゃ笑。あれほどたまっていた疲れはどこへ行った?痙攣の予兆がすっかり鳴りを潜めた。元気がどんどん湧き上がってきて、このまま何キロでもずっと同じペースで走っていけそうな感覚があった。キロ4が途端に遅く感じられ始めた。上げようか、上げまいか。やはりまだ我慢しよう。
30~40kmのラップタイムは、先ほどの10kmを上回る39分30秒。ペースが全然落ちない。まだまだ上げていける余裕もある。コレは2時間50分切りも固いかな。あと2km弱、キロ5分まで落として走っても目標達成らしい。余裕があったら最後の1kmにビルドアップしよう。ラストは下り坂。ペースを上げても痙攣しないはず。
40km~フィニッシュ 8分18秒
40km通過時点でキロ4分の集団は5人に絞られた。最後までこの集団へついていけて嬉しい。30km過ぎにふくらはぎが痙攣し始めたときはちょっと今日は厳しいかなと思った。福知山でサブ40に挑戦できるだけの力がまだ備わっていないのかな、と。ジェルのおかげで脚が復活した。余裕を取り戻し、サブ40の最終目標が視野に入るポジションへたどり着いた。
五回目の上り坂は流石にきつかった。ジェルの魔法が解け、ふくらはぎが再び痙攣しそうになった。今度は内腿やハムストリングスまで痙攣の予兆が。そりゃ疲れるわな。平坦な道をジョグで42km走るだけでもソコソコ疲れるのに、起伏まみれのコースをキロ4分で走り続けたら疲れるに決まっている。脚が疲れて動かないなら腕で何とかする。腕はまだまだ元気。前後へ強く振って推進力を作って足を無理やり動かしていく。
最後の上り坂をクリア。あとはもうフィニッシュまで下っていくだけ。神のようなペースを作ってくれたペーサーさんに「ありがとうございました!」と感謝を伝える。下り坂の助力を得て3’20″/kmまで一気に加速。勢いがつきすぎてこけてしまうかと思った。流石に飛ばしすぎた。もう少し自重しても良かったかもしれない。最後のカーブを左に曲がってフィニッシュ地点のスタジアム内へ。電光掲示板はまだ2時間46分台を示している。可能な限り出力を上げた。1秒及ばなかった。正味のフィニッシュタイムは2時間47分00秒。
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