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レース前半
最初の1kmを6分で通過
案の定、周りのランナーは超ハイペースで突っ込んでいった。ただでさえレースという事で興奮状態にあるうえ、あたりが真っ暗だからペース感覚が狂ってしまう。自分が四年前にこのレースへ出たときも序盤はオーバーペースになった。スピードの出しすぎに気付くまでに5kmもかかった。スタート直後についた勢いのままハイペースで走り続けてしまい、余計に体力を消耗してしまった結果、後半に大失速。手痛い失敗を犯して四年ぶりに迎えた今回のウルトラでは入りに気を付けた。意図的に超スローペースで走り始めた。最初の1kmは6分ちょうど。50人近くに抜かれながらも自分のペースを貫き通した。どうせ後から全員抜くから問題ない。序盤の貯金は終盤の負債。ウルトラに序盤貯金戦術は通用しない。
とはいえ、サブ9を達成するにはチンタラ走り続ける訳にもいかない。2km目から5kmぐらいかけてじわじわと加速し、予定ペースの5’10″/km付近に到達。
5km〜:私と同じペースで走る2人組ランナーと集団走
ランナーはスタート時に密集していた。スタートから20分後、前後へ散り散りにばらけてしまった。暗い夜道をしばらく単独走。転げないよう足元に細心の注意を払いながら。5kmを過ぎたあたりだろうか。後ろから男女2人組のランナーさんが賑やかに談笑しながら近づいてきた。彼らの話をそばだててみる。「24時間走が云々…」と聞いちゃいけない異次元の話が聞こえた。24時間走って何だろうか?ひょっとして、24時間走り続ける大会のこと?そんなクレイジーな大会が存在するんだ笑。24時間マラソンって、車を使ってワープするのがお家芸の某チャリティー番組だけかと思っていたわ。
ん?ひょっとしてあの人たちは「先週100mile走った」と仰っていた方々だろうか?思って後ろを振り返ってみると……大正解。二週連続でウルトラに挑む女性 (Bさん) とそのご友人が2人で走っておられた。彼らは異次元のスタミナを有している。なんせ二週連続で一度に100km以上もの距離を走るのだから。どうせ私なんかあっという間に抜き去っていくだろう。彼らと自分のスタミナレベルに圧倒的な差があるのは否めない。しかし、彼らはなかなか抜き去らない。彼らも誰かと一緒に走りたかったのか、私のペースに合わせて一緒に集団走をする格好となった。賑やかに話す人が近くにいると、その場の雰囲気が華やかになって元気をいただける。並走して下さって本当にありがたい。彼らとは数kmごとに阿吽の呼吸で先頭を代わりあう。互いに互いを引っ張り合ってサブ9のレースペースを維持。お二人もサブ9を目指していたみたい。一緒に目標を達成すべく共闘を誓い合った。
13km:最初の激坂に差し掛かる
しばらく海岸線沿いの平坦な道を進んでいた。13km過ぎ、突如、急坂が目の前に現れる。ようやく沖縄100Kが始まった。沖縄100Kは坂だらけの大会。険しい坂を乗り越えてこそ大きな達成感を味わえるというもの。
練習で勾配20%以上の超激坂を何度も上り下りしていたおかげか、1km近く続いた上り坂が大してキツくなかった。「こんなに楽に上れて良いのだろうか…」と首をかしげてしまうほどアッサリ乗り切った。人間の成長ってすごい。四年前はヒーヒー言いながら膝に手をついて上っていた坂を今回はスタスタと駆け上がることができた。ただ、私と一緒に走っていた二人は私よりハイペースで登坂した。気付いたらあっという間に置いて行かれてしまった。平地で少しペースを上げ、3kmかけてどうにかお二人に追いついた。
20km:海沿いを走って冒険気分
その後も断続的に訪れる起伏を一つずつクリアする。20km過ぎからは海岸線を沿うように走って間近で沖縄の海を体感。途中、行く手を草がふさいでいる箇所がいくつかあった。茂みを手足でかき分けながら、開拓者気分で前を目指して突き進む。このような経験はウルトラやトレランでしか味わえない。終始整備された舗装路を走り続けるフルマラソンにはこうしたサプライズが存在しない。
20.8kmのエイドを過ぎた直後のトイレで、スタート直後から我慢していた用を足してスッキリ。それまでにもエイドでトイレに行こうと思っていた。仮にソコでトイレに行くと、集団から外れて単独走を強いられる。暗い夜道でコースを誤って進めば迷子になるおそれも。トイレを出て気持ち良くレースに復帰。さっきまで一緒に走っていた二人組が遥か彼方まで行ってしまっていた。既に辺りが明るくなり始めていたので迷子を恐れる必要はない。単独走の難しいのはペース調整。ペースを自分一人で作らねばならぬ以上、ペースのことで頭を酷使して余計にエネルギーを喪失してしまう。
30km:ふくらはぎの様子が少しおかしくなってきたぞ…?
30km地点を予定通り5’15″/kmペースで通過。少しずつ足に疲労がたまってきたのを感じた。気分転換としてウエストポーチに入れていた補給食を摂取。また、前日受付にて配布されたMCTゼリーを食べた。MCTオイルは、脂質を燃えやすくするサプリメント。エネルギー生産サイクルを脂質燃焼モードへと切り替え、体内での備蓄量に限りがある糖質を終盤まで温存することが可能。
今回のレースで補給物を摂ったのはこのタイミングが初めて。それまではペース維持に神経を使いすぎて何も食べる気が起こらず、ついうっかり補給を疎かにして30kmまで来てしまっていた。補給すべき時に補給しなかった影響か、右足のふくらはぎの様子が少々おかしくなってきた。おそらく、発汗によりミネラル不足に陥っていたのではないだろうか。35.5kmのエイドでスポーツドリンクを2杯飲んだ。加えて黒糖のかけらも1個頂戴した。足の違和感が途端に落ち着いた。無事にレースを続行することができてひと安心。
35km:「60kmまではウォーミングアップ」と聞いてスイッチが入る
レース序盤に並走した2人組ランナーの男性(Hさん)の方と35kmあたりで再会。そこから約8kmほど同じペースで一緒に走り、大学のことやお仕事のことなど色々なテーマで言葉を交わす。私はいま北大大学院の修士2年生。社会の事、特に外資系企業のことなど全く知らない。Hさんは外資系企業へお勤めのよう。院生の私へ外資の給料や魅力などをたっぷりと教えて下さった。また、Hさんが「ウルトラは60kmまでがウォーミングアップっすよ」と仰るのを聞いてハッとした。そうだよな、こっからが本番だよな!とようやく自分のやる気スイッチが入った。
スタート時は、弱気になっていた自分のために、目の前へ「50kmでリタイアしても良い」と逃げ道を用意して走りだした。頭がようやく本気モードに入った瞬間、「逃げ道なんか必要ない。最後まで走り切る」と鬼の形相で退路を遮断。フィニッシュするつもりで走らなきゃ意味がない。札幌から沖縄まで行ってたった50kmしか走れなかったら何をやってんだか分からない。42.195kmを3時間45分で通過。43.1kmのエイドでHさんと離れ、そこからフィニッシュまでの長い一人旅が始まった。オーバーペースだけには注意。『90kmから本気出す』を合言葉に力の温存に努めた。
中間地点付近:息もできないほどの突風に苦しむ
中間地点が間近に迫り、(後半戦も頑張るぞ!)と戦意で燃えていた時のこと。前方から猛烈な向かい風が吹き始め、油断していた私はほんの一瞬だけ呼吸が止まってしまった。不意打ちの向かい風であわや死にそうになる。風速は軽く10m/sを超えていたのではないだろうか?その後も強い逆風に向かって走り続けた。中間地点到着時にはヘロヘロになっていた。後半はこの北風に向かって走り続けねばならない。ホントに大丈夫かな。ゴールできるかな。いや、ゴールするんだ。何があってもフィニッシュする。少々不安になりはしたものの、スタート時に比べて一億倍まで高まった戦意が私に【レース続行】の決断を下させた。
ボランティアスタッフからドロップバッグを受け取る。腰へ巻いたダウンをバッグにしまって腰回りを快適にしたり、レース中に消耗した補給物を補充したりして後半戦へ向けて態勢を整えた。
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