2教科目:英語



試験が開始し、問題冊子を一枚めくった。
出題傾向は例年と同じで、特に答えにくそうな問題も見当たらなかった。
そこで、いつも通り、大問1→2→4→3と片づけていく事にした。
慎重に問題文を読み進め、記号問題や和訳問題をササっと処理をし、大問4までを試験時間の半分でクリアしていた。
適度な緊張感と指回し体操のおかげで、普段の1.5倍速ほどのスピードで英文が頭に入っていった。
まるで日本語を読んでいるかのように英文を理解できたため、テンションがどんどんハイになり、ニヤニヤしながら受験していた。
最後に回した英作文は、”日本人の働き方のメリット/デメリットを書きなさい”という趣旨の問題文だった。
今まであまり考えてこなかった議題だったため少々手間取りはしたものの、どうにかひねり出して以下のように解答した。
- メリット:クビになるリスクが低いので安心して働くことができる。
- デメリット:ぶら下がり社員をクビにできないからいつまでたっても賃金が上がらない。
英作文を終えた時、試験時間はまだ30分近く余っていた。
そこで、読解問題の読み違いがないかをよく確認し、英作文ではスペルミスを入念にチェックしておいた。
あまりにもヒマだったので、試験終了15分前からは机に突っ伏し休憩していた。
試験官や周囲の受験生からは(コイツ, 勝負を諦めたのか笑)と思われていたかもしれないが、私の心の中では



と、早くも勝利宣言している所であった。
解答用紙の上で寝ていたため、用紙によだれを垂らさぬよう、口元にしっかりと力を入れていた。
もしよだれで用紙を汚してしまった時には、「天井から水漏れしてきたんです」と言い訳しようと考えていた。
そんなこんなで時間をつぶし、無事に試験終了時刻となった。
よだれフリーな解答用紙を試験官に手渡し、1時間ほどの大休憩に突入した。
大休憩



すでに合格を確信していたため、危うく帰ってしまいそうになった。
しかし、(まだ戦いは終わっていないぞ!)と、主席合格へ向けた大勝負に向け、再び気合を入れ直した。
受験終了後に知ったのだが、北大入試はひと科目でも受験しなければ全教科未受験扱いとなるため、もし帰ってしまっていたら不合格になっていたのである。
まさに天国から地獄へ転落する寸前だったため、気を緩めなくて本当に良かったと思っている。
最終科目の受験の前に、少しだけ外気を吸いに行った。
冷たい空気を肺へ取り込み、上がった体温を下落させた。
雲一つない空を見上げ、空の蒼さに驚いた。
今までは受験によるストレスで空がくすんで見えたのだが、受験から解放される事がほぼ決定した今、私の両目を覆っていた見えない汚れが一気に剥がれ落ちていったのである。
スッキリ気分転換できたところで、試験教室へと舞い戻った。
理科の勝負に備え、化学重要問題集と名門の森を一通り流し読みしておいた。
そして、指回し体操とモグモグ体操で脳細胞を活性化させた。
最後に、カフェイン入りのエナジージェルを一気飲みし、合法ドーピングに努めたのであった。
最後の理科では9割(135点)をとろうと考えていた。
必ず主席合格するために、全問完答するつもりで思考回路のエンジンを全開にした。
3教科目:理科



試験開始時、数学の時のような緊張感は一切存在しなかった。
会場の雰囲気に慣れたのと、すでに合格を確信していたのが安心材料としてあったからである。
物理の問題レベルは名門の森より1~2ランクほど簡単であった。
全てどこかで見かけた問題だったし、一か月前まで応用問題として京大物理25か年をやっていたおかげで北大物理が非常にやさしく感じられた。
実の所、北大物理と京大物理は”穴埋め形式”という点で共通しているのである。
コレが京大から志望校を変える際に北大を選んだ理由の一つであり、”最初の問題を間違えると大問まるまる吹っ飛ばしてしまう”というスリルの元、細心の注意を払って解ける所まで回答した。
この年の化学は少しだけ難しかった。
重要問題集をやりこんでいても対応できない問題が数問あったため、それは「捨て問」と早々に割り切り、他の問題で点数をかき集めた。
物理/化学ともに解答用紙を9割ほど埋め、試験時間は残り20分だった。
もうこれ以上頭を使う気力が湧かず、10分程度見直しを行い、あとは机に突っ伏し、終わりの刻を待っていた。
就寝まで



「解答をやめて下さい」の合図とともに伏せていた顔を上げ、間髪入れず解放感が私をそっと抱きしめてくれた。
よだれフリーの解答用紙を試験官に渡し、帰り支度を始めようとした。
すると、試験官から受験者全員に対して”20~30分待機しておくように”とのアナウンスがあった。
(何かトラブルでもあったのかなぁ…?)と思っていたが、どうやら全ての解答用紙が揃っているか試験官が確認するための時間だったようである。
再び机に突っ伏して、辛かった浪人生活を回想してみた。
昨年はA判定だったのに京大に落ちたから、浪人時代は模試でいくら好成績をとっても嬉しく感じられなかった。
また、成績が良ければ良いほど(また不合格になる予兆なのかな…?)と不安を感じ、いっときも気を休める事が出来なかった。
そんな過酷な状況で、よくぞここまで走り切った。
安堵と歓喜が入り混じり、私は不思議な感覚に包まれていた。
現役生より一年間遠回りしてしまったけれども、おそらくこの一年は自分にとって不可欠な時間だった。
精神の未熟さ、勉強に対する姿勢、私生活の規律など、社会人になる前に己を見つめ直す必要があったのである。
「試験教室から出ても良い」との合図とともに、私はおもむろに席を立ちあがった。
そして、受験生の大群にもまれながら、階段を降りて屋外に出た。
外は大雪が降りしきっていた。
傘を持ってこなかったのを後悔したが、今更悔いてもどうしようもないので、なるべく頭を濡らさぬよう、地下鉄北18条駅へと足早に向かった。
南北線をさっぽろ駅で降り、ホテルに帰って一息ついた。
何か美味しいものを食べに行こうと思ったのだが、急に寒気がし始めたので自粛しておく事にした。
近くのコンビニで体の欲するものを適当に仕入れ、ホテルの部屋のベッドで掛布団にくるまりながらぬくぬくと食事を摂取した。
いつもより2ランクぐらい上のおにぎりとパンを口に頬張り、(お金持ちになったら毎日こんな旨いものばかり食べたいなぁ)と、ひとり妄想に耽っていた。
就寝前に、親へ受験終了のメールを送った。
親も「よかった^^」と返してくれ、受験が終わった実感が少しずつ湧き上がってきた。
浴槽にお湯をはり、冷え切った体をホカホカにした。
体を拭き、服を着て、幸福度MAXの状態で寝床についた。
合格発表当日編に続く…