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起床~新千歳空港



二次試験2日目、実家・広島のベッドで起床した。
今までかじりついて勉強してきた学習机の前に着席し、目覚ましがてら数学の計算ドリルにとりかかった。
浪人時代、私は毎朝30分、数学の軽い問題演習に取り組んでいた。
というのも、現役時代の京大受験で数学で致命的な計算ミスを連発してしまい、数学が不合格の主犯格となったゆえ、同じ過ちを二度と犯したくなかったからである。
浪人の夏、メンタルの限界をきたし、志望校を京大から北大へと格下げした。
それでもやるべき事に何ら変わりはなく、試験中に絶対に計算間違えをしないように無敵の計算力を築き上げた。
父親がゴソゴソ起き出してくると、今度はベランダに出て英文を音読した。
まだ眠っている母親を起こさぬよう、自分だけに聞こえる声で、分速200wordのスピードで音読・暗唱した。
日が昇ってきたのを頃合いに、近所の神社へと参拝しに行った。
- 自分の力を出し切れますように…
- 自分にピッタリな大学へ進学できますように…
と、神のご加護を祈念した。
家に帰り、準備を整え、広島空港へと旅立った。
広島駅前から出ている高速バスを使用し、1時間ほどかけて空港に到着した。
空港の中に入ってみると、北大受験生と見られる学生がJALのカウンター前に集結していた。
私が予備校でよく見かけた学生もいて、(あ~、あの子も北大受けるんだ…)などと考えながら、出発前ロビーでぼんやりとしていた。
すると、突然空港内をJALのアナウンスが響き渡り、「目的地天候不良のため、飛行機が広島に引き返す可能性がある」と通達された。
周囲の北大受験生は騒然としていたが、私は(そんなこと言っておいて, 実はちゃんと着陸するんでしょ笑)と一歩離れて静観していた。
というのも、スマホで新千歳空港の着陸状況を見て、本州を飛び立つほぼ全ての飛行機がちゃんと千歳に着陸できているのを確認済みだったのである。
一喜一憂すると心のエネルギーを浪費するため、なるべく感情の起伏を穏やかにし、試験に100%の力を注げるよう心掛けていた。
出発1時間前に保安検査場を通過し、出発15分前にJAL3403便へ搭乗した。
近くには札幌へ行く受験生が大勢いて落ち着かなかったので、目を閉じてじっくりと休んでおく事にした。
ジェットエンジンがうなりを上げ、飛行機は一気に大空へと羽ばたいた。
(一年越しの合格、絶対掴み取ってみせるぞ!)と、遠ざかる広島の地面を見つめながら心に誓った。
気流の影響をほとんど受けず、飛行機は千歳へ向けて順調に航行した。
着陸態勢に入る頃になると少しずつガタガタ揺れ出したが、気持ち悪くなるほどの揺れではなかったように思う。
ぶ厚い雲を切り裂き降下し、銀世界の北海道が見えてきた。
- おー、アレが函館か!
- 羊蹄山は綺麗だなぁ…
などと札幌学で仕入れた知識を適宜引き出し、北海道上空のフライトを心穏やかに楽しんでいた。
空港へ向けて高度を下げ、ガタンッ!という大きな衝撃ののち、新千歳空港に着陸した。
CAさんによる「空港の天候は雪、気温は摂氏マイナス5℃でございます」といったアナウンスを聞き、



と、北海道に上陸した実感が湧いてきた。
新千歳空港~札幌周遊



手荷物カウンターで荷物を回収し、エスカレーターで地下に降りてJRの改札へと向かった。
そして、空港と札幌を37分で結ぶ超高速列車・快速エアポートに乗り、南千歳→千歳→恵庭…と道央を快調に駆け抜けていった。
途中、何度も汽笛が鳴らされ、(北海道って線路を横断する人がそんなに多い所なのか?!)と驚いたのをよく覚えている。
しかしそれは私の思い違いで、踏切を通過するたび汽笛を鳴らし、”電車が通りますよ~”と念のため安全喚起しているようであった。
新札幌駅を過ぎ、「まもなく札幌に着く」というアナウンスが聞こえ、辺りが徐々に都会らしい雰囲気へと変化していった。
実際に札幌へ到着したのはアナウンスの5分後ぐらいで、(北海道では5分が”もうすぐ”なのか…笑)と、早くもカルチャーショックに見舞われたのであった。
札幌駅のホームに降り立ち、まず気温の低さに驚かされた。
肺に目一杯息を吸い込めばひんやりとした空気が体を刺し、フーっと息を吐きだすと消火器を噴射したかの如く口から白い息が噴射された。
寒いというより、痛いのである。
瀬戸内海沿岸の温暖な気候に慣れていただけあって、札幌の気候へ順応するのに時間がかかりそうな予感がした。
階段を下りて改札に向かい、札幌駅南口方面へと歩みを進めた。
とりあえず荷物を置いて身軽になりたかったので、予約していたホテルへ行き、チェックインを済ませてひと休みした。
このまま部屋でゴロゴロするのも時間が勿体なく思われた。
そこで、時間つぶしがてら、北大の試験会場まで歩いて行ってみようと思い立った。
ツルツル路面に足を取られながら、悪戦苦闘の末に北大正門へとたどり着いた。
正門で北大構内の見取り図を確認すると、試験会場(高等教育推進機構)はそこから北へ1km以上離れた所にあると知り、北大の大きさに驚愕させられる事となった。
メインストリートを北上していると、アメフト部を始めとする体育会系部員が「受験生さんですか?」と次々と話しかけてくれた。
初めて会った北大生がアメフト部の方だったから、(北大生ってみんなこんなに体がデカいのか?!)と再び驚かされたのをよく覚えている。
15分ぐらいかけ、ようやく目的地へと到着した。
外装に煌びやかさは一切見られず、外面(そとづら)より中身で勝負する潔さに心打たれた瞬間であった。
札幌の空を見上げると、まだ日暮れまでに1~2時間ありそうな雰囲気だった。
まだもう少し外を歩いていたい気分だったため、札幌キャンパスの一番北にある馬術部まで行ってみる事にした。
北18条門を抜けて斜め通りを北上し、24条通りで西に進路変更して馬術部の前まで辿り着いた。
本当は中に入って部員の方と話してみようと思ったのだが、受験前に気を緩めてしまえば現役時代の二の轍を踏むため、門を開けたい衝動をグッとこらえ、部室を外から眺めるだけにしておいた。
私は小学4年生から乗馬を10年間やっており、北大に入学したら馬術部に入ろうと思っていた。
浪人時代、時々更新される馬術部のブログをチェックして、
- 楽しそうだな…
- 一緒に乗馬をやりたいな…
などと空想を膨らませ、日々蓄積されるストレスを体から引きはがしていた。
馬術部から東方面へと歩き、北24条駅(きたにじゅう”よ”じょうえき)から地下鉄南北線で札幌駅に行った。
ホテル近辺のコンビニで夕食を仕入れ、部屋のベッドに座ってむしゃむしゃと獲物を頬張っていた。
就寝まで



このまま勉強せず寝るのに罪悪感を感じ、少しだけ勉強しておく事にした。
広島から持参した速読英単語上級編をざーっと全文流し読みし、新数学スタンダード演習もIA・IIBだけ気になる問題を解き直しておいた。
合格最低点越えを狙っていた現役時代とは違い、浪人時代の私は総合理系主席合格を目指していた。
そのため、(不合格になるかもしれない)という不安とは完全に無縁で、一点でも高い点を取れるよう、頭の状態を受験当日へピーキングするのが至上命題となっていた。
やるべき勉強を済ませたのち、熱めのシャワーで体を洗った。
好きな歌を小声で熱唱しつつ、身体を副交感神経優位に切り替え、体を拭いて服を着て、電気を消して就寝した。
試験前日編に続く…