私は現役北大院生である。
私は研究室に配属されて以来一度も大学の実験室で研究したことがなく、つくばにある物質・材料研究機構へ長期滞在して実験データを手に入れている。
この記事では、大学院生が外部の研究機構(他大も含む)へ出張して研究するメリットとデメリットを3つずつ述べていく。
私と同じような境遇にある全ての学生(もしくは社会人)の参考になればいいなと思ってこの記事を作成したので、興味のある方はぜひ見て行っていただきたい。
それでは早速始めよう。
Contents
大学院生が外部の研究機構へ出張して研究するメリットとデメリット
メリット
大学にはない超高性能な装置を使って実験できる



最初のメリットは、大学が買えないような超高価な装置をバンバン使って実験できる点である。
大学は一年ごとに1%ほど交付金を減らされ続けており、どんどん貧乏になっていっている。
その一方、私の出張先である物質・材料研究機構(以下NIMSと略す)は国からの支援を受けてどんどん拡張していっている。
大学とは違って全ての設備が新しいし(和式トイレなんてありません笑)、”物質・材料科学”が重要産業として指定されているおかげでお金がじゃんじゃん入ってくるのだ。
潤沢な研究予算があるおかげで世界最先端の装置が導入されるし、研究者の端くれですらない私もおこぼれにあずかって精度の高いデータが出せるのである。
私の使用している装置は一台2,500万円するらしい。
そんな高い器具はまず大学には置いていないし、装置の高額さが参入障壁となっているおかげで私の研究分野はブルーオーシャン状態だ。
実験で出した全データが世界で初めて得られた結果だし、ハッキリ言って私はこの研究が楽しくて仕方がない。
(おそらく私は自分の学科内で最も恵まれている学生なのではないだろうか)と運に感謝している所である。
研究者ばかりの環境なので研究者志向の学生にはすごく刺激的



次に、NIMSにいる7割以上の人間は研究者である。
研究者の助手や作業員さんも中にはいらっしゃるが、大半の人間は博士号持ちor博士課程の研究者である。
北大にも身近な所(指導教員)に研究者がいるが、周囲の大多数は私と同じ学生であるため、研究者まみれの環境で生活できるというのは本当に刺激的である。
あまりにも刺激的過ぎて、初めてNIMSに長期滞在した時は実験中に鼻血が出てしまったぐらいである。
私は将来研究者になりたいと思っているため、NIMSの雰囲気を全身で味わえるのは非常に貴重な経験である。
大学でばかり研究していると”研究者”とはどういうものなのかが指導教員を見ることによってでしか想像がつかない一方で、研究機構で研究していると至る所に研究者がいるため(研究者ってこういう面構えをしていてこんなオーラを放つんだな)という事を身をもって知られるのである。
世間離れしている印象のある研究者であっても、近くで雑談を聞いていれば
- 趣味の話
- 嫁さんの愚痴
- 最近のニュース
といった話題を話していたため(案外身近な存在なのだな)と確認できた。
研究者の生態についてイメージできるようになったという点で、私は外部出張にメリットがあるなと感じたのである。
井の中の蛙状態を回避・脱却できる



大学の研究室は非常に小さい組織のため、本気で1年ぐらい努力すると研究室の中心的存在になれてしまう。
私は半年間死ぬ気で勉強した所で(何だか最近ずいぶんと先生から頼りにされるようになったなぁ)と実感するぐらいになったのだが、そこで天狗になっていた私の鼻はNIMSに行く度にポキッと折り続けられていた。
NIMSには私なんて足元にも及ばない大変な知識人がわんさかいらっしゃるのだし、廊下で外国人同士が笑顔で交わしている議論があまりにも分からないので(自分は何と物事を知らない人間なのだろうか…)と自分の卑小さをつくづく実感している次第である。
こうしてプライドを粉砕され続けた結果、私は北大に帰っても謙虚さをキープできるようになった。
狭い組織にいると視野が狭くなるのは不可避だし、よほど気を付けていないと井の中の蛙になってしまう。
特に私は調子に乗ってしまいやすいタイプなので、もしNIMSで研究させてもらえるチャンスがなければ”世間を全く知らない高学歴迷惑野郎”に成り下がっていたであろう。
広い世界を見られたおかげで”大海を知る蛙”になる事ができた。
コネを存分に発揮してこのようなチャンスを下さった指導教員には本当に感謝している。
一方で、出張による研究にはデメリットが存在する。
次の章ではそのデメリットを3つ紹介していく。
デメリット
共同研究先をいつまで頼れるか分からない



最初のデメリットは、私がいつまでNIMSで研究できるか分からないという点である。
というのも、私がお世話になっているNIMSの先生は他の機関に出向してしまう可能性が大であるらしく、その方の助けがなくては実験ができない(そもそもNIMSの敷地にも入れない)ため、自分が今やっているテーマをいつまで続けられるかが全くもって未知数なのである。
幸運にも私が修士課程を卒業する年度まではNIMSにいらっしゃるみたいだが、もし私が博士課程に行くとすると、博士課程の期間中におそらくその先生はNIMS以外の所へ行ってしまわれる公算が大きいらしい。
大学で実験をしていれば”実験装置が使えなくなる”という悩みはないだろうから、この悩み(というか不安)は出張実験ならではのものであると言えるだろう。
私はこの点で博士課程進学をためらっている。
D1の時にNIMSの先生が出向すると仮定すると、学振の申請書にはこれからの研究計画をどのように書けばよいのだろうか。
研究の道筋が全く不透明なのに、研究計画など立てられるわけがないじゃないか。
博士号を取って企業研究者になりたいと思っているだけに、あまりに先行きが不安であるため博士進学をしたくても決意できないでいるのである。
この問題を解決するには、博士進学と同時に研究室を変えるしかない。
しかし、そうすると今まで積み上げてきた実験ノウハウが一度白紙になってしまうし、せっかく築き上げた人間関係や信頼関係をもう一度ゼロから作り直す羽目になってしまう。
異分野の研究を行うとすれば、論文や学会発表などの研究実績もDC1申請の際にノーカウントとなってしまうおそれがある。
嗚呼、私はいったいどうすればよいのだろうか…!!



緊急事態宣言等で移動制限がかかった時に詰む



次に、今回のコロナのバカ騒ぎで発令された緊急事態宣言のように何かの移動制限がかかった際、出張先でしか研究ができないと実験が全く進まなくなってしまう。
幸いなことに、私がB4の時(2020年度)は私を拘束するような制限はかからなかったものの、今後、どういった事態が待ち受けているか全く予想もつかないので不安しかない。
いつ飛行機が全便欠航になっちゃうか分からないし、国際線だけではなくて国内線までもワクチンパスポートを持っていないと搭乗できなくなるかもしれないのだから。
私はワクチンという善人ぶった猛毒を体内に入れるのは絶対に反対なので、ワクチンパスポートが必要になった時は空打ちをお願いして注射したことにしてもらおうと思っているが、それ以外の外的要因によって移動規制がなされた時はにっちもさっちもいかなくなるため、こうした点が出張実験の大きなデメリットだなぁと感じている。
私が北大でも何か実験できるテーマを持っているのであれば、移動制限など恐るるに足らず、泰然自若とできるのである。
しかし、私はまだNIMSでの実験テーマしか持っておらず、将来に対して何のリスクヘッジもできていない状態である。
このままではまずいという危機感があるため、M1になった直後(2021年度)、私は先生にお願いして北大でできる2つ目の実験テーマを考えてもらった。
そちらの方は完全に新規開拓となるため学術論文として投稿できるまでにしばらく時間がかかるだろうが、少なくともNIMSに行けなくなった時の保険としては十分機能するだろうから北大での実験の方もしっかり行っていく所存である。
装置を壊してしまった時の責任問題がややこしい



最後のデメリット(というより気になる点)は、もし出張先の実験装置をぶっ壊してしまった場合、その修理費や賠償はどうなるのだろうかという所である。
- NIMSと北大のどちらの機関が修理費を賄うのだろうか
- 私には(一応学研災に入っているけど)どれぐらいの負担額があるのだろうか
- そもそも学研災は学外での研究に適用されるのだろうか
- 機械を壊してしまった私を再びNIMSは受け入れて下さるのだろうか
こうした点がややこしいのである。
この点についてNIMSでお世話になっている方に聞いてみると



と仰ってくれているのだが、装置が壊れた時、果たして本当に大丈夫なのかどうかイマイチよく分からない。
要は”壊さないように注意して実験しろよ”という事なのだろうけど、お金が発生する以上は必ず責任問題も発生するため、ややこしい事態に陥らないため慎重に実験を行わねばならないなと感じた次第である。
最後に
大学院生が出張先の研究機関で実験を行うメリットとデメリットは以上である。
出張実験には、超高性能な装置を使える上、研究者ばかりの環境に刺激を受けられる一方で、いつまでその機構にお世話になれるか分からないし、移動制限がかかると詰んでしまうという欠点がある。
まぁ、世の中、デメリットのないウマい話はないから、メリットとデメリットを天秤にかけ続けて熟慮の上で決断しなくてはならないな。
これからの身の振り方、そして博士進学の可能性をしっかりと考え、まずはスタートしたばかりの大学院生活を存分に楽しんでいきたいと思っている。
以上です。